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真実と虚像の硲3

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3、  先に歩き出した平次の背を見やり、新一はくしゃりっと前髪を掻き上げた。  平次が先に行ったところで、無意味だろうに。  そう思いはしたけれど、それは口に出さないまま事務員と並んで事務室へと向かった。 「あ、先に行って確認してきます」  先を行く平次の背中にようやく気が付いたらしい事務員が、はっと我に返ったように言った。こくりと頷いた新一が「お願いします」と返すと、事務員は平次の脇をすり抜けて駆けて行った。残された少し先を行く平次の背中を見やり、新一は心の中でため息をついた。  たとえ同じ講義をとっている確率が高くても。近寄りさえしなければ害はない。構内でもそれは同じで、たとえ顔を合わせてしまったとしても、気にしなければそれでよいのだ。  だがこうやって、一度事件が起きれば、現場で鉢合わせてしまう。  自分が気に入らないと思っているように、平次も同じ思いを持っているだろうに。何の因果でこんな風に行動を共にしなければならないのか。  いや――。  何も一緒に動かなくてもよいとは思うのだが、どうやら、基本的な思考論理が似通っているようなのだ。  「大したコトないとええけど」  ぼそりと呟いた平次の視線の先を見やると、高井を乗せた救急車がサイレンを鳴らしながら構内を出ていくところだった。 「そうだな」  傷自体はそれほど深くはなかった。  問題があるとすれば、複数の後頭部の打撲跡だろうか。 「けど、なんだってあんなトコにおったんや?」 「それが分かれば事件になんてなんねーよ」 「まあ、その通りや」  うんうん、と頷いた平次はぴたりとその足を止めて新一を振り返った。 「で? どうみる?」  そんな平次の言葉に、新一は驚いたように目を見開いた。まさか、平次がそんなコトを自分に問うとは思ってもみなかったのだ。 「なんやねん、その顔は。意見を聞いただけやないか」 「あ――いや」  こほんっと咳ばらいをした新一は、気を取り直して口を開いた。 「次の時間が俺たちの講義だったのは確かだ。けど、あの資料は俺たちが使うものではなかったのも事実だ」  新一は一旦そこで言葉を切った。そして、再度口を開こうとした時、平次が言った。 「せやけどあの資料、あのセンセの分野ですらなかったで?」  そんな平次の言葉に、新一は驚いたように目を見開いた。 「――なんだ。気が付いていたのか?」 「なんや、その言いぐさは」 「いや、別に。気づいてないかと思ったからさ」 「アホくさ。そんなもん、少し見ればわかるやろ」  ふんっと鼻を鳴らした平次は面白くないというようにふいっと横を向いた。そんな平次の表情が何とも子供のようで、新一はくすりっと笑い声を漏らした。  そんな新一の反応が面白くないというように眉を寄せた平次は、不満そうに口を開いた。 「……なんやねん」  口を尖らせながら言った平次の表情は、拗ねた子供のようだった。 「いや。なんか、子供みてーだな、と思って」 「はあ? だれがガキやねんっ! おのれは、一体、ドコに目ぇつけとるんや」  ぎっと新一を睨み付けながら言った平次の顔はかすかに赤みがかかっていた。そんな平次の反応に、新一は思わず「へえ」っと漏らした。 「今度はなんやねんっ」 「いや。そういう顔もするんだな、と思って」  この服部平次という男は、どこか他人に一線引いたところがある。『新一が気に入らない』という表情以外で、こんな風に露骨に自分の感情を露わにしたところを見たことはなかったのだ。 「……ふん。意味の分からんコトを」  ふいっと横を向いた平次の浅黒い横顔には、まだ微かに朱がさしているように見えた。  最初からこんな姿を見ていたら、もう少し印象が違ったかもしれないのに。そんなことを思って見ていると、事務員が慌てて駆けてくるのが見えた。 ■ 真実と虚像の硲3 ■ A5オフ 36P  平新 イベント販売価格 ¥400 Novel 綾部 澪

3、  先に歩き出した平次の背を見やり、新一はくしゃりっと前髪を掻き上げた。  平次が先に行ったところで、無意味だろうに。  そう思いはしたけれど、それは口に出さないまま事務員と並んで事務室へと向かった。 「あ、先に行って確認してきます」  先を行く平次の背中にようやく気が付いたらしい事務員が、はっと我に返ったように言った。こくりと頷いた新一が「お願いします」と返すと、事務員は平次の脇をすり抜けて駆けて行った。残された少し先を行く平次の背中を見やり、新一は心の中でため息をついた。  たとえ同じ講義をとっている確率が高くても。近寄りさえしなければ害はない。構内でもそれは同じで、たとえ顔を合わせてしまったとしても、気にしなければそれでよいのだ。  だがこうやって、一度事件が起きれば、現場で鉢合わせてしまう。  自分が気に入らないと思っているように、平次も同じ思いを持っているだろうに。何の因果でこんな風に行動を共にしなければならないのか。  いや――。  何も一緒に動かなくてもよいとは思うのだが、どうやら、基本的な思考論理が似通っているようなのだ。  「大したコトないとええけど」  ぼそりと呟いた平次の視線の先を見やると、高井を乗せた救急車がサイレンを鳴らしながら構内を出ていくところだった。 「そうだな」  傷自体はそれほど深くはなかった。  問題があるとすれば、複数の後頭部の打撲跡だろうか。 「けど、なんだってあんなトコにおったんや?」 「それが分かれば事件になんてなんねーよ」 「まあ、その通りや」  うんうん、と頷いた平次はぴたりとその足を止めて新一を振り返った。 「で? どうみる?」  そんな平次の言葉に、新一は驚いたように目を見開いた。まさか、平次がそんなコトを自分に問うとは思ってもみなかったのだ。 「なんやねん、その顔は。意見を聞いただけやないか」 「あ――いや」  こほんっと咳ばらいをした新一は、気を取り直して口を開いた。 「次の時間が俺たちの講義だったのは確かだ。けど、あの資料は俺たちが使うものではなかったのも事実だ」  新一は一旦そこで言葉を切った。そして、再度口を開こうとした時、平次が言った。 「せやけどあの資料、あのセンセの分野ですらなかったで?」  そんな平次の言葉に、新一は驚いたように目を見開いた。 「――なんだ。気が付いていたのか?」 「なんや、その言いぐさは」 「いや、別に。気づいてないかと思ったからさ」 「アホくさ。そんなもん、少し見ればわかるやろ」  ふんっと鼻を鳴らした平次は面白くないというようにふいっと横を向いた。そんな平次の表情が何とも子供のようで、新一はくすりっと笑い声を漏らした。  そんな新一の反応が面白くないというように眉を寄せた平次は、不満そうに口を開いた。 「……なんやねん」  口を尖らせながら言った平次の表情は、拗ねた子供のようだった。 「いや。なんか、子供みてーだな、と思って」 「はあ? だれがガキやねんっ! おのれは、一体、ドコに目ぇつけとるんや」  ぎっと新一を睨み付けながら言った平次の顔はかすかに赤みがかかっていた。そんな平次の反応に、新一は思わず「へえ」っと漏らした。 「今度はなんやねんっ」 「いや。そういう顔もするんだな、と思って」  この服部平次という男は、どこか他人に一線引いたところがある。『新一が気に入らない』という表情以外で、こんな風に露骨に自分の感情を露わにしたところを見たことはなかったのだ。 「……ふん。意味の分からんコトを」  ふいっと横を向いた平次の浅黒い横顔には、まだ微かに朱がさしているように見えた。  最初からこんな姿を見ていたら、もう少し印象が違ったかもしれないのに。そんなことを思って見ていると、事務員が慌てて駆けてくるのが見えた。 ■ 真実と虚像の硲3 ■ A5オフ 36P  平新 イベント販売価格 ¥400 Novel 綾部 澪