yumemigusayumemigusa

南柯の夢 後編

  • 物販商品(自宅から発送)
    発送までの日数:7日以内
    ¥ 1,200

4、 「広告デザイン賞――ねえ」  ポツリとつぶやいた新一は、手の中にあった件の文書を、机の上に投げ捨てた。  そのまま、うんっと大きく伸びをすると、ソファーにべったりと背を預ける。そして、視線だけを、投げ捨てた文書にちらりと向けた。  捨てたところで、文章の内容が変わるわけがない。  そこには、先ほどまでとなんら変わりのない、催し物案内以外には見えない一枚の紙切れがあるだけだった。  この文書に秘されたものが、一体何であるのか――。  どれだけ考えても、まったく見当がつかなかった。  最初から、そう簡単に解けるとは思っていなかったが、これほどまでに手古摺る予定ではなかったのだ。  目頭を押さえた新一は、ついっと頭上に視線を向けた。  晧々とついた電気が目に入って、新一は眩しそうに目を細めた。  もう、いい加減、考えることを放棄してもいいのではないだろうか――。  そんな思考が、新一の脳裏をちらりと過ぎった。  この文章に秘された謎を、なんとしても解いてやるという気概は、この数十分の間にほとんど費えてしまっていた。  お手上げだといわんばかりに、両の手を上げた新一は、海よりも深いため息をついた。  ――と、早々に暗号解読からリタイアしていた平次が、すくりと立ち上がった。そのままキッチンに足を向けた平次は、冷蔵庫を開けると中を覗き込みながら「う~ん」っと唸り声をあげた。  そんな平次の様子を、ただぼんやりと目で追っていた新一は、訝しげに眉を寄せた。  いつもの事ではあるが、冷蔵庫の中には、悩むほど物は入っていなかったはずだ。新一の記憶が間違っていなければ、入っているのは、多少の飲み物と、一昨日、蘭が出かける前に持ってきた煮物くらいだ。それなのに、いったい何を悩んでいるというのか……。  しばらく中を眺めていた平次は、そこからミネラルウォーターを取り出すと、それを美味しそうに飲み下した。そして、ちらりと新一に視線を向けた平次は、小首を傾げながら口を開いた。 ■ 南柯の夢 後編 ■ A5/オフ/表紙フルカラー  84P 平新 イベント販売価格 ¥ 900 Novel  綾部 澪 Illustration  小椋さよこ さま

4、 「広告デザイン賞――ねえ」  ポツリとつぶやいた新一は、手の中にあった件の文書を、机の上に投げ捨てた。  そのまま、うんっと大きく伸びをすると、ソファーにべったりと背を預ける。そして、視線だけを、投げ捨てた文書にちらりと向けた。  捨てたところで、文章の内容が変わるわけがない。  そこには、先ほどまでとなんら変わりのない、催し物案内以外には見えない一枚の紙切れがあるだけだった。  この文書に秘されたものが、一体何であるのか――。  どれだけ考えても、まったく見当がつかなかった。  最初から、そう簡単に解けるとは思っていなかったが、これほどまでに手古摺る予定ではなかったのだ。  目頭を押さえた新一は、ついっと頭上に視線を向けた。  晧々とついた電気が目に入って、新一は眩しそうに目を細めた。  もう、いい加減、考えることを放棄してもいいのではないだろうか――。  そんな思考が、新一の脳裏をちらりと過ぎった。  この文章に秘された謎を、なんとしても解いてやるという気概は、この数十分の間にほとんど費えてしまっていた。  お手上げだといわんばかりに、両の手を上げた新一は、海よりも深いため息をついた。  ――と、早々に暗号解読からリタイアしていた平次が、すくりと立ち上がった。そのままキッチンに足を向けた平次は、冷蔵庫を開けると中を覗き込みながら「う~ん」っと唸り声をあげた。  そんな平次の様子を、ただぼんやりと目で追っていた新一は、訝しげに眉を寄せた。  いつもの事ではあるが、冷蔵庫の中には、悩むほど物は入っていなかったはずだ。新一の記憶が間違っていなければ、入っているのは、多少の飲み物と、一昨日、蘭が出かける前に持ってきた煮物くらいだ。それなのに、いったい何を悩んでいるというのか……。  しばらく中を眺めていた平次は、そこからミネラルウォーターを取り出すと、それを美味しそうに飲み下した。そして、ちらりと新一に視線を向けた平次は、小首を傾げながら口を開いた。 ■ 南柯の夢 後編 ■ A5/オフ/表紙フルカラー  84P 平新 イベント販売価格 ¥ 900 Novel  綾部 澪 Illustration  小椋さよこ さま