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真白に奪われゆくもの 前編

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いつもの場所にバイクを止めた平次は、ヘルメットを取ると、軽く頭を振った。  そして、背中に背負ったディパックを下ろす。それと同時に、今まで暖かかった背中に冷気が入り込み、ぶるりと身を揺らした。  ついっと空を見上げると、厚い灰色の雲に覆われていた。  丁度、寒気団が流れ込んでいるらしい。もしかしたら、明日あたり、大雪が降るかもしれないと、ニュースでも流れていた。 「雪……か。厄介やな」 頭上に広がった重苦しい灰色に向かって、平次は苦々しく言った。この東京では、ほんの数センチ雪が積もっただけでも、交通機関は麻痺してしまう。 「ま、ええか。明日はバイトあらへんのやし」 大学は、とうの昔に冬休みに入っている。バイトさえ入っていなければ、別段外出などしなくてもいいのだ。ならば、雪に降られようと、何ら問題はない。  それに――。 「東京でも降るんやったら、スキー場の方も、間違いなく降るやろしな」 ぽつりと言った平次は、ちらりっとディパックに目をやると、思い出したように、にんまりと笑った。 先ほど旅行社で、スキーパックのパンフレットをいくつか拾ってきたのだ。今年の冬は暖冬で、スキー場にも、あまり雪がないというような事を言っていたが、ここで降ってくれれば、そんな心配はしなくてもいいだろう。 「問題は、雪よりも、工藤やな」 言いながら、平次は嘆息した。 別に、どうしてもスキーに行きたくて、このパンフレットを持ってきたわけではなかった。 動機はすごぶる単純で、ただ単に、新一と一緒にどこかに出かけたかっただけだった。出かけられるのであれば、別にスキーでなくてもかまわないのだ。 けれど、旅行に行こうなどと言えば、即座に「何でだ?」と返されそうな気がして、その口実として、『スキーパック』を利用したのだ。 だが……。 ■ 真白に奪われゆくもの ■ A5/オフ/表紙フルカラー  92P イベント販売価格 ¥1,000 Novel  綾部 澪  Illustration  小椋さよこ さま * 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *

いつもの場所にバイクを止めた平次は、ヘルメットを取ると、軽く頭を振った。  そして、背中に背負ったディパックを下ろす。それと同時に、今まで暖かかった背中に冷気が入り込み、ぶるりと身を揺らした。  ついっと空を見上げると、厚い灰色の雲に覆われていた。  丁度、寒気団が流れ込んでいるらしい。もしかしたら、明日あたり、大雪が降るかもしれないと、ニュースでも流れていた。 「雪……か。厄介やな」 頭上に広がった重苦しい灰色に向かって、平次は苦々しく言った。この東京では、ほんの数センチ雪が積もっただけでも、交通機関は麻痺してしまう。 「ま、ええか。明日はバイトあらへんのやし」 大学は、とうの昔に冬休みに入っている。バイトさえ入っていなければ、別段外出などしなくてもいいのだ。ならば、雪に降られようと、何ら問題はない。  それに――。 「東京でも降るんやったら、スキー場の方も、間違いなく降るやろしな」 ぽつりと言った平次は、ちらりっとディパックに目をやると、思い出したように、にんまりと笑った。 先ほど旅行社で、スキーパックのパンフレットをいくつか拾ってきたのだ。今年の冬は暖冬で、スキー場にも、あまり雪がないというような事を言っていたが、ここで降ってくれれば、そんな心配はしなくてもいいだろう。 「問題は、雪よりも、工藤やな」 言いながら、平次は嘆息した。 別に、どうしてもスキーに行きたくて、このパンフレットを持ってきたわけではなかった。 動機はすごぶる単純で、ただ単に、新一と一緒にどこかに出かけたかっただけだった。出かけられるのであれば、別にスキーでなくてもかまわないのだ。 けれど、旅行に行こうなどと言えば、即座に「何でだ?」と返されそうな気がして、その口実として、『スキーパック』を利用したのだ。 だが……。 ■ 真白に奪われゆくもの ■ A5/オフ/表紙フルカラー  92P イベント販売価格 ¥1,000 Novel  綾部 澪  Illustration  小椋さよこ さま * 画像、文章の無断転用・複写は固くお断りいたします *